Evening Lecture 2024 山道拓人 氏 |開催報告
Evening Lecture 2024
山道拓人 氏 |開催報告
イベント名:Evening Lecture 2024
日時:2024年6月27日 17:30-19:00
会場:九州大学伊都キャンパスイースト1号館A215
ツバメアーキテクツの山道拓人氏をお招きして6月27日(木)にイブニングレクチャーを開催しました。
建築を学ぶ学生が、建築やデザインの一線で活躍するゲストと語り合うことで、『建築家』という職業をよりリアルに感じてもらうことを目的としたイブニングレクチャー。夕方からカジュアルな雰囲気で行い、レクチャーの後は、ドリンク片手に座談会を行いました。

前半のレクチャーは、山道拓人氏が「道具」という言葉を軸に、ツバメアーキテクツの設計理念や実作を紹介。
東日本大震災やコロナを通じてものの価値が急に変わるのを体感したことで、建築の「ふたしかさ」を感じるようになったという山道氏。それからは、建築に道具性を見出そうとしていると言います。
人間本来の自由と創造性が最大限活かされる社会をどう作るか、を問うイヴァン・イリイチの名書「コンヴィヴィアリティのための道具」をもとに、道具とは何かを紐解いていきます。本来は人のために作り出した道具が、行き過ぎた産業主義社会によって、道具が人を支配する逆転現象が起こります。2つの分水嶺のような構造をしており、第一段階は人が道具を使いこなし自由度が高い状態、第二段階では関係が逆転し、人が道具に支配される状態となっていきます。
そこで、イリイチは、道具にある程度の制限を設けてコンヴィヴィアリティ(自立共生)のための道具としてつかうことが本来の在り方ではないか、と説きます。山道氏は、「建築という道具も同じで、過度の産業主義により同じような建物ばかりができていくこと」に疑問を持つようになったそうです。
2020年春にオープンした「下北沢 BONUS TRACK」は、地下化した線路跡地に、下北沢の街並みを引き継いだ商店街を生み出そうと小規模開発を行ったプロジェクトです。ここには、まさに建築を道具として扱うための設計が巧みに仕掛けられています。様々な使い方が予め想定されており、利用者が自身のエリアを拡張しながら、建築を可変することができる工夫に満ちています。利用開始後の定点観測では、時を重ねるごとに異なる使い方をされる様子を見ることができ、利用者が建築を使いこなしている様子が印象的です。
山道氏は、様々な都市で起こっている大規模開発とは異なり、産業主義とは違う価値観を見出そうとした脱「開発」的な開発を心掛けて小規模開発を選び、地域に見合うサイズ感のテナントに区分したり、住民チームに運営を任せたり、開発も道具として扱えるような仕組みづくりを行なったと言います。
その他、製材の過程で生じる材をくまなく使ったオフィス、ずれを生むタイルなど、爽やかなデザインの裏に隠された産業主義を乗り越えようとする切り口の実績が紹介されました。
ツバメアーキテクツには、設計を行う「Design」と、仕組みや完成後の使い方を思考するシンクタンク「Lab」の2つの部門があります。様々な視点で行き来しながらプロジェクトに取り組むことで、建築を道具として扱うことを実践しているそうです。
後半の座談会では、BeCATの教員、末廣、百枝に加え、まちづくりの研究がご専門の九州大学の黒瀬教授と大分大学の柴田准教授をコメンテーターに迎え、和やかな雰囲気の中、議論が交わされました。
山道氏が、自身の開発スタンスが「メジャーリーガーを育てるのではなく、誰でも使いやすい道具を開発して草野球のレベルアップを図るようなイメージ」という言葉がとても印象的でした。
いい仕組みやルールづくりを作り出し、様々な地域で真似されて、まちづくりのレベルを底上げに繋がっていくことなど、今後のまちづくりへの期待も語られるなど、学生からも活発な意見が飛び交いました。
山道拓人(Takuto Sando)
1986年 東京都生まれ
2009年 東京工業大学工学部建築学科 卒業
2011年 同大学大学院建築学専攻 修士課程修了
2011-18年 同大学院博士課程 単位取得満期退学
2012年 Alejandro Aravena Architects/ELEMENTAL(チリ)
2013年 Tsukuruba Inc. チーフアーキテクト
2013年 ツバメアーキテクツ 設立
2023年- 法政大学デザイン工学部建築学科 准教授

イベント名:Evening Lecture 2024
開催日時:2024年6月27日(木)17:30-19:00
形式:一般公開(対面+オンライン)
会場:九州大学 伊都キャンパスイースト1号館A215(コミュニティ・ラーニング・スペース)
対象:九州大学学生、建築教育に関心ある一般の方、BeCATでの学びに関心ある学生や一般の方
定員(対面):学生25名
参加教員|末廣香織(副センター長)、百枝優(担当准教授)、黒瀬先生(九州大学教授)、柴田先生(大分大学准教授)
報告|BeCAT 井田久遠
