Sustainable Design Camp 2024 門脇 耕三氏 |開催報告
Sustainable Design Camp 2024
門脇耕三 氏 |開催報告
イベント名:Sustainable Design Camp 2024
日時:2024年8月5日 13:00-15:00
会場:九州大学伊都キャンパス A215(コミュニティ・ラーニング・スペース)
昨年8月5日に開催されたSustainable Design Campのゲストに、建築構法がご専門の門脇耕三氏を迎え、「Architecture for Miscellaneousness」をテーマにレクチャーしていただきました。
冒頭は、門脇氏が学生時代に何に興味を持っていたか。
“映画、音楽、漫画、建築”とテーマを分け、流れるように出てくる言葉の数々に、ぐいっと惹きつけられました。
“映画”に関しては、古典からコンテンポラリーなものまで年間150本ほど鑑賞し、自主映画の監督を務めるほど心酔していたといいます。映画というのは本来空間と時間を持つ概念で、どのようにシーンとシーンをつなぐか、ということが非常に重要だと説きます。小津安二郎の『晩秋』を例に挙げ、小津が日常空間を意図的に現れさせるために用いている革命的な手法の一つに、「ピローショット pillow-shot」(評論家のノエル・バーチが、「枕詞」から作った造語で、あるシークエンスの前に、導入として置かれているショット)があると指摘。人物のいない風景や家屋の一画などを切り取るショットです。何気なくみえるシーンですが、シーンとシーンの繋がりを潤滑に繋ぐ技巧が凝らされているといいます。

「目白台の住宅」(2008-2010):
外観はシンプルな矩形の3つの白い箱が集まったような姿。中二階を持つ、2階建ての二世帯住宅として設計されています。多数の要素によって構成されるのが建築であるが、そこにある無数の小さな要素を消したかった、と門脇氏。しかし、設計手法が抽象的で、完全な満足には至っていないと語り、門脇邸で考えた設計理念にて思いを昇華させます。

左側に見える壁は、実は全て収納。従来の収納に出てくるつまみなどを全て排除し、要素を減らし、最低限の表現に仕上げられています。
門脇邸(2014-2018):
門脇氏の自邸。東京都世田谷区の新旧様々な住宅が建つ住宅街の角地に位置するため、東西南北、全てのファサードは、それぞれが面するまちの佇まいに沿うように異なっている。また街との繋がりを感じるよう1階には通り土間を通し、室内の家具は、設計者が権威的な存在にならないためにも、別の建築家やデザイナーに依頼したといいます。
「全体性がなくとも、建物に一貫した論理や幾何学があることによって、逆にその建築に閉鎖性をもたらす可能性があるのではないか」。多様な要素が入り乱れ、エレメントや場所の即物的な隣り合わせが自然と起きる状況を作り出したかったという門脇氏。門脇邸はまさに彼の頭の中を体現する“ラボ”となったわけです。

第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 日本館展示
国際建築展の日本館展示のキュレーターに任命され、グラフィックデザイナーである長嶋りかこ氏や、長坂常氏を始めとする建築家たちと協働して挑んだヴェネチア・ビエンナーレ。「建築は大量の廃棄物を出す産業であり、それが産業廃棄物の20%を占めるという事実をどれだけの建築家が意図的に意識しているだろうか」と問題提起しました。世の中の空き家は増加の一途をたどっているという事実がありながら、半年の展示のために新材を使用して展示を構成することに対してただならぬ違和感を覚えたといいます。
そこで解体させてもらえる住宅を探し、偶然にも門脇邸の隣に建つ木造住宅・高見澤邸と出会いました。解体で出た資材はベニスまで運搬し、建築におけるマテリアルの循環として展示するプロジェクトに仕立てたといいます。
高見澤邸は、典型的な日本の住宅の間取りでした。解体にて発生した木材などは全てナンバリングし、QRコードを作り、どこにどの部材があったかの記憶を辿るようにベニスの会場に運び込まれました。
コロナの影響で2021年に延期され、オープニングはオンライン。現地の職人とは毎日ズームで打ち合わせをし、遠隔でコミュニケーションを図ったといいます。
会場エントランスで使用された青色の看板や、2階の展示室に敷かれている床の仕上げには、日本における工事現場で使用されるブルーシートを使用したとのこと。日本における青色は建設現場を象徴しているため、既存の意味合いを継承しながら新しい意味を付与したいと考えていたようです。
ビエンナーレの終了後は、会場まで運んだ資材の次の行方の模索です。幸運にもプロジェクトに興味を持った人が名乗り出てくれ、オスロで資材をアップサイクルし、公民館にする計画が進行中とのこと。完成が楽しみです。

建築におけるマテリアルの循環を起こし、ヴェネチア・ビエンナーレという展示会場を実験の場として見立てました。
座談会では、BeCATの教員である末廣、百枝、吉良から、コモン・プロパティについての議論が飛び出し、プロジェクトには建築家だけではなく、デザイナーなど他の分野の専門家が加わり協働して進めていくことの大切さなど、和やかな雰囲気ながら、有意義な議論が交わされました。
当レクチャーでは、マテリアルの循環が我々の社会において共有資産となっていくことを再認識したと同時に、これから建築に携わっていく人間が、今後の自身のふるまいについて考えさせられる良い機会となりました。門脇さん、ありがとうございました。

-略歴-
門脇耕三(KADOWAKI kozo)
2000年東京都立大学卒業後、2001年同大学 大学院修士課程修了。首都大学東京助教などを経て、2012年に明治大学に着任。同年アソシエイツ設立、パートナー現在、明治大学出版会編集委員長、東京藝術大学非常勤講師を兼務。第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展では日本館のキュレーターを務めた。 専門は建築構法、構法計画、建築設計。著書に『ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡』(TOTO出版、 2020)、建築作品に『門脇邸』(2018) 、受賞に日本建築学会作品選奨(2020)など多数。
イベント名:Sustainable Design Camp 2024
日程|2024年8月5日(月)13:00-15:00
形式|一般公開(対面+オンライン)
会場|九州大学 伊都キャンパスイースト1号館A215(コミュニティ・ラーニング・スペース)
対象|九州大学学生、建築教育に関心ある一般の方、BeCATでの学びに関心ある学生や一般の方
定員|サステイナブルデザインキャンプ受講者学生30名程度、オンライン50名
参加費|無料
参加教員|末廣香織(副センター長)、末光弘和(デザインラボ長)、吉良森子(担当教授)、百枝優(担当准教授)
報告|BeCAT設計助手 楠元彩乃
