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建築家教員3人の対談。
多様な業界や文化背景の人との交流プラットフォームとしてのBeCAT。

INTERVIEW
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みんなが新しい生き方や持続的な暮らし方、学び方を模索しているこの時代に『建築』が貢献できることがある。
いろんな業界や文化背景の人と交流できるプラットフォームとしてBeCATが貢献できれば。

写真左より、末光弘和、重松象平、末廣香織 | 2021年10月

写真左より、末光弘和、重松象平、末廣香織 | 2021年10月

建築と都市の専門家が、これからの都市・建築のあり方を研究し、成果やそれぞれの経験を色々なかたちで社会に還元していく、環境をテーマにした建築研究教育センター「BeCAT – Built Environment Center with Art & Technology」が、2021年春に九州大学に設立されました。

BeCATセンター長は重松象平(OMAニューヨーク事務所代表)、副センター長は末廣香織(NKS2 アーキテクツ共同主宰)、BeCATデザインラボ長は末光弘和(SUEP.共同主宰)。中心となる3名全員が国際派の建築家教員です。
普段は、ニューヨークを拠点に世界各地のプロジェクトに携わる重松をはじめ、各地で活躍するメンバー同士のコミュニケーションはオンラインも交えて行いますが、重松が建築デザインした天神ビジネスセンターの竣工をタイミングに、BeCATの中心となる3名が福岡に集まりました。


天神ビジネスセンター
取材&撮影地:天神ビジネスセンタービル | 2021年10月

「当時はこんなに世界で活躍するようになるとは思ってもみなかった」

目立った学生ではあったけれど、と当時を振り返る末廣。
九州大学でのBeCATの立ち上げに際して、かつての教え子でもある重松と、環境が今ほど注目されていない頃から環境を重視した建築で実績を重ねていた末光に声をかけたのは、建築設計の実務家教員の末廣香織。

BeCATメンバー
写真左より、末光弘和、重松象平、末廣香織 | 2021年10月

BeCATで副センター長として運営を担う末廣は、大学卒業後、東京の建築設計事務所で設計業務に携わりますが、オランダの建築家がユニークな教育の場(ベルラーヘ・インスティテュート)を設立したことを知り留学。その後、アムステルダムの建築設計事務所勤務を経て、九州大学で教育の現場に立つようになります。
リサーチやデータを元に論理を組み立て、ダイナミックな建築デザインで知られるオランダの設計事務所OMA(Office for Metropolitan Architecture)が、世界の注目を集めはじめた頃に現地で過ごした末廣。彼が九州大学に教員として着任してから学生に与えた影響は計り知れず、後に、重松がオランダに渡り、OMAに所属するようになったのも無関係ではありません。

個としての創造性を発揮しながら、社会の変化や発展に関わることができる仕事だと思って建築の道に進んだ重松象平。

地球環境の視点から建築をデザインするに興味があり、自然と人とが共生できる建築の作り手になりたい、と建築家になることを選んだ末光弘和。

建築設計という共通言語があれば、国境や文化の壁も容易に飛び越えることができることは建築の大きな魅力であるとし、自らもそれを実践する末廣。研究や教育の場である大学と地域社会との接点となる業務も多く担っています。


BeCATは、大学と社会をつなぐコミュニケーションの場。

社会へ向けて開くこと、そして、社会性ある分野やエンジニアリング、新しいテクノロジーを積極的に取り入れていくことは、三者の共通の思いです。例えば、環境シミュレーションを使って、数値という現実を目にみえるようにし、それを元に組み立てることで根拠あるデザインが可能になります(ここで いうデザインとは、単に見た目の良し悪しを図るのではなく、使いやすさなどの狙いや目的を実現するために創意工夫すること)。

こうした大学の知見を活かしたアプローチで、リアルな社会課題を地方自治体や民間企業と連携して解決していくことは、BeCATのビジョンです。


「九州」というキーワード

重松:古くに遡ると、そもそも建築とは環境に順応して作られてきたのだけれど、今では世界的に均質な建築が作られるようになっています。もはや地球環境への配慮が欠かせない現実を踏まえると、一度原点に戻って環境を見直し、その地に則したものをつくっていきたいと考えるようになりました。

末廣:近代という時代は、経済を発展させてエネルギー消費を行ってきました。その影響で地球環境が今のような状況です。近代的な考え方だけでやっていると、限界がくるのはもう誰もが知る現実です。多様性をふまえ、経済以外の幸福感、暮らし方、豊かさを考えることも必要になってくるでしょう。

BeCAT重松
BeCAT末廣

末光:地球環境を考える際には、地域の個性や固有性を認めながら、課題を解決していく多様性こそが重要だと実感しています。東南アジアの自然環境と類似点も多い九州、その一部である福岡・ 糸島から、BeCATの取り組みを発信できることに意義があると考えています。

BeCATでは、九州の環境マスタープランとプロトタイプデザインも考えます。そのために、九州地域の幾つかの環境のテーマ、例えば「エネルギー」「災害」「素材」「観光」「生態系」などを抽出し、そのテーマに沿って問題を解決する環境マスタープランを考えます。

BeCAT末光
reserch

社会に開かれた学びの場であり、環境がテーマの学びを通じた交流拠点

環境の視点から新しい都市・建築のあり方を問う教育を行うBeCAT。九州大学大学院生にはスタジオが開かれており、学休中の短期間で行われるスクール形式のワークショップは、九州沖縄の大学生(学部2〜4年)と大学院生に開かています。これまでに3回行われたスクールには、世界で活躍す る建築家や、糸島や福岡を拠点に活動する事業家や投資家、そして九州の住宅会社や糸島の老舗酒蔵など、多様な人や組織に参加いただいています。

サマースクールレクチャーの様子

末廣:まずは、大学と社会をつなぐコミュニケーションの場としてのBeCATを知ってもらい、社会人にも開かれた学びの場を積極的につくっていきたい。また、それぞれが世界各国で活動できる国際派の運営メンバーが揃っていることを強みに、今後は、海外の大学との交流をはじめ、国際的な展開も進めたい。

重松:ヨーロッパ拠点に10年、アメリカ拠点に15年、その間に中国や南米でも仕事に携わり、そろそろ日本に何か還元したいと考えていました。いいタイミングで、故郷でもある福岡発BeCATをスタートできることは、とても意味があると感じています。大きなビジョンと小さな実践をつなげていきたい。

末光:大学卒業後に勤務した伊東豊雄建築設計事務所でヨーロッパやシンガポールなどの海外プロジェクトを担当し、地域の多様性、そして地球環境の重要性を再認識しました。これまでは環境や災害にはデザイン性が統合されていなかったけれど、テクノロジーを用いて考えることが可能となりました。これこそがアジアの各地で使えるプロトタイプになるかもしれません。九州>福岡>糸島発のBeCATの価値を追求していきたい。


アジアや国内の主要都市と繋がる都市機能をもちながら、車で30分程走ると、海や山を有する自然 豊かで食材も豊富な糸島半島(福岡県)にある、BeCATの拠点・九州大学に着きます。ここ福岡は、国内各地から若年層の移住も増加している国内でも活気ある地域。新しい価値観や考え方への期待が高まる今、多様な文化や自然など、私たちを取り巻く『環境』を通して、ここ糸島から、新しい暮らし方や街のあり方を考え、世界へ向けて発信する建築研究教育センター、BeCATが活動を開始しました。

『良い人材が増えると、良い都市ができる』。大学内にあるBeCATですが、現役の学生や建築業界に限らず、「環境」をキーワードに人々が集まる『場』に育てていきたいと考えています。

取材&撮影:サーズ恵美子 | 2021年10月

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