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伊東豊雄講演会(7月2日)
開催報告

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伊東豊雄福岡講演会(7月2日)開催報告

博多祇園山笠がはじまり夏を迎えた福岡で、現代の建築界をリードする世界的な建築家・伊東豊雄氏を講師に迎えて講演会を行いました。
会場は、銀行建築の傑作といわれる黒川紀章設計の福岡銀行本店にあるFFGホール(1975年竣工)。福岡の都心に贅沢な公共の広場を提供するこの建物に、583名の人々が集まりました。

FFGホール
会場の福岡銀行本店

東京を拠点に活躍する伊東さん。九州に来る機会はそう多くはないものの、福岡に行く、博多で講演することは、ウキウキするし東京での活動とは違う期待感があると言います。「モダンな街であるけれど、屋台が営業していたり、アジアっぽい雰囲気や古くからのカルチャーが残っている。そのまま大切にしてほしい」。

左から伊東豊雄氏、末廣香織、末光弘和
左から伊東豊雄氏、末廣香織、末光弘和

講演は「私の建築論」をタイトルに行われました。冒頭は、幼少期を過ごした長野県の諏訪湖での暮らしが紹介され、伊東さんの建築家として活動、そして人としての価値観形成に大きく影響していることが伝わってきます。

建築家の大西麻貴さんの言葉を借りて、このような表現もありました。 「伊東さんにとって心の中の風景とは、わたしたちを取り巻く現実に世界と 違うものだという。心の中の風景からは、そうした生々しさがふるい落とされ、浄化された世界なのだ。うちなる、自然、純化された自然、とも言い表される」「大西麻貴<心の中の風景>」

手書きのイラストを用いた、伊東さんの建築イメージの説明では;
「桜の花が咲くと、みんな花見をし、宴をひらく。そのためにはどういう場所が宴に適しているのか、 場所を選ぶし、一枚の幕を回らすだけで特別な場所になる。そして幕を外せば元に戻る、そんな刹那的で、仮説的な建築がいいと、ずっと頭にある」
● 人が自然のうちにいること
● 水や空気が流動する空間であること
● 非幾何学的な空間であること
(幾何学をたくさん使っているが、できれ 非幾何学を作りたい)

伊東豊雄福岡講演会

また、東京を例えに、西洋世界に憧れ、ひたすら近代化を推進してきた過密化する都市については、街らしさまで失うことへの警告も。「高層化すればするほど、日常の生活は自然から切り離されて均質化し、孤立化した人工空間となるしかない。建築だけ均質化するだけでなく、人の暮らしまで均質化しているのではないか」。
だからこそ、「これからの建築家は、潜在しているかつての日本人の生活を、新しい建築として提案することに他ならない」との静かなメッセージが会場に響きます。

そんな現状における伊東さんの実践の紹介では、舞台芸術の創造と発信、及び、地域に根ざした文化活動の拠点「座・高円寺」と、知の拠点(市立中央図書館)と絆の拠点(市民活動交流センター)、文化の拠点(展示ギャラリー等)からなる複合文化施設「みんなの森ぎふメディアコスモス」が紹介されました。

伊東さんは、公共建築の意義を問い、一過性のものから、本当の意味でのみんなのものになるのか、を繰り返し語ります。穏やかな口調で、時には 詩やエッセイを用いて客観的表現で伝えられ、一貫したメッセージが詰まった90分の講演でした。

伊東豊雄福岡講演会

講演の後は、伊東豊雄氏と、当イベントの実行委員長、末廣香織(BeCAT副センター長)と、かつて伊東豊雄事務所に勤務した末光弘和(BeCATデザインラボ長)を加えたトークセッションです。

「アルゴリズム的な建築の捉え方のように感じた」との末廣のコメントに、「日本庭園のように、真ん中に池があり、周囲にお茶室や松などエレメントを加え、ここから見たらこう見える、といったようなシークエンスがある建築をしたい、と考えてはいる。しかし実際の建築では、まずは構造体がないと成り 立たないので、自由な配列は難しい。新しいアルゴリズムとして、幾何学ではなく、できるだけ物事を曖昧にしておきたいと思う」と伊東さん。

伊東豊雄福岡講演会

また、末光からは、これまで一緒に働いた人たちから受けた影響について問われると、「菊竹事務所で、構造家との打ち合わせの場で『閃き』があることを知った。提案したものに対する意見や、できないことに対する打開策の提案を受けて、飛躍したプランが生まれたことを何度も見てきた。こんな身体的な閃きにクリエイティブがあるのではないかと信じている」。

そして、かつてのスタッフだった末光を例えに「師に対して突っ掛かるくらいであれ」と、若い世代へのメッセージも。「こうだよね?と問えば、そうですね。では何も生まれない」。末光が入社したばかりの頃は、チーフに嫌がれる程だった(笑)とのコメントに、末光も思わず苦笑です。

伊東豊雄福岡講演会

建築家としての活動に加え、これからの建築を考えるNPOを立ち上げた伊東さん。子どもたちに建築やまちに対する意識を高めて思考や表現の個性を伸ばすことを目的とする「子ども建築塾」では、確かな手応えも感じているという。8年ほど子ども建築塾を手伝ってくれた人が、福岡へ越したことを きっかけに、福岡でも2023年春を開塾目標に準備中です。

福岡の建築家の有志によって企画が持ち上がり、半年ほどで実現した今回の講演会。
BeCATでも、このような機会を積極的に推進していきます。

伊東豊雄福岡講演会


● イベント名:伊東豊雄講演会「私の建築論」
● 開催日時:2022年7月2日(土)13:30〜16:00
● 主催:伊東豊雄福岡公演実行委員会(末廣香織、末光弘和、井本重美、田上健一、矢作昌生
平瀬有人、四ケ所高志、清水里司、渡邊誠、松山将勝、古森弘一、井手健一郎、平安弘和)
● 共催:(公社)日本建築家協会九州支部、九州大学BeCAT


伊東 豊雄 (Toyo Ito)
1941年生まれ。建築家。(株)伊東豊雄建築設計事務所代表。東京大学工学部建築学科卒業。主な作品に「せんだいメディアテーク」「みんなの森ぎふメディアコスモス」「台中国家歌劇院」(台湾)などがある。福岡での緑と建築の共生空間「体験学習施設ぐりんぐりん」を設計。日本建築学会賞(2003)、ヴェネツィア・ビエンナーレ金獅子賞(2002,2012)、プリツカー建築賞(2013)など受賞多数。2010年に特定非営利活動法人「これからの建築を考える」を立ち上げ、私塾「伊東建築塾」を設立。これからのまちや建築を考える建築教育に関する活動を行っている。

取材&撮影:サーズ恵美子 | 2022年7月

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