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BeCAT Design Lecture 2023
藤本壮介|開催報告

REPORT

BeCAT Design Lecture 2023
開催報告

イベント名|BeCAT Design Lecture 2023
開催日時|2023年5月14日(日)13:00~15:00
会場|九州大学伊都キャンパス

建築やデザインの分野で活躍する専門家を迎え、デザイン理論・手法を説く公開型レクチャーシリーズ、BeCATのデザインレクチャー。課題の捉え方や解決へ向けたデザイン方法を学び、発想や企画・デザイン力の修得を目指します。

今回は、建築家の藤本壮介さんによるデザインレクチャーです。
東京とパリに事務所を構えて国内外で活躍する藤本さんは、2025年の大阪・関西万博会場のデザインプロデューサーとしても注目されています。
今回行われたレクチャーの前日・5月13日には、設計依頼から2年以上の時を経て完成した太宰府天満宮仮殿で遷座祭が行われたばかりです。

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Between Nature and Architecture

レクチャーのタイトルは「Between Nature and Architecture(自然と建築の間)」。藤本さんは、「分かち難く、どこかで繋がっている自然と人工物(建築)の関係」を、たくさんのプロジェクトでの経験談を通して紹介。

最初に紹介されたプロジェクトは、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013。王立公園ケンジントン・ガーデンズに夏の4ヶ月間だけパビリオンを建てる20年ほど続くプロジェクトに、藤本さんが若手として初めて登用されました。「建築が本来持っているものを取払い、建築らしさを乗り越えるというチャレンジを行いました。今まで見たことがない建築ながら心地よさもあり、その時々で人間の活動が起こる、そんな場所になりました。」と藤本さん。それまでが突き詰めていくタイプのプロジェクトだったとすれば、これ以降は「可能性を広げていく建築のあり方」へと視点が切り替わったと言います。
このプロジェクトが藤本さんにとって海外での初案件。これをきっかけに彼の海外展開が始まりました。

続けて、人の動きと交通、世界遺産や歴史を考えることとなったベオグラードのプロジェクトや、これからの暮らしを考える際にはデザイン的なインパクトとは別に、コミュニティを作ることの大切さを実感した南フランスのモンペリエのプロジェクトなど、建築を通して、建築家として、人として成長してきたポイントを、わかりやすい言葉を選んで軽やかに語ってくださいます。

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南フランス、モンペリエ(2013年コンペ)-学生が持参した書籍より(上部の白い建物)
「建物の独自性としてのランドマークだけでなく、夢のような場所・モンペリエでの暮らしの素晴らしさを立体的に表しているランドマークでもあります。」と、藤本さん。

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〜道は魅力的。人間的な活動は道に溢れている〜
また、建築家と「道」の関係にも言及します。「建築が人間の活動の場、と考えると、閉じこもっていないで出ていこう」と、思考や行動の制限が自分にあることにも気づかせてくれます。「建築家として道を作れないが、道を作ることを含めた全体像を作ることはできる。領域横断的な思考で、新しい形での統合で未来を作ろう!」

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そして太宰府天満宮仮殿。124年ぶりに行われる御本殿の大改修を行う3年間のための仮殿は、太宰府天満宮の周辺に広がる豊かな自然が御本殿に飛翔し、屋根に森が現れるというコンセプトでデザインされました。
太宰府に古くから残る、道真公を慕う梅の木が一夜のうちに太宰府まで飛んできた飛梅伝説から着想を得たといいます。また、境内にある樹木の種類から選び、常緑と落葉とのバランスをとり、仮殿の役目が終了したら、屋根上にある植物は境内に戻されます。

藤本さんは、日本の伝統建築の象徴的な存在として目をつけた「屋根」が、自然で生きていることが大切だと考えました。ここでも、藤本さんが目指す「自然と人工物の融合」を見ることができます。

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「私たちの提案を、歴史や伝統、文化、地域…計り知れないものを背負っている宮司が選んでくれた、ということにも意味があります。自分でいうのもなんですが、すごく格調高く、感動的なものができました。ぜひ現地で見てください!」

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その後もスイスの学校、フランスで進行中の建築、ハンガリー・ブタペストの森の中に立つ音楽教育の複合施設など海外のプロジェクトや、飛騨高山で進む「一瞬見ただけで信念がわかるシグネチャーとしての建物」が望まれる大学と地域の駅前を一体で開発する大規模プロジェクトなど、総数15もの進行中のものも含めて国内外の多様なプロジェクトが紹介されました。

最後は、注目の集まる大阪・関西万博です。
「現在、ヨーロッパでは木造に関する注目度も高く、積極的な取り組みもパッションを持って行われているが、日本はまだそこまでに至っていません。しかし、日本で万博が行われるからには、日本から最先端の大規模の木造を発信したい。」と藤本さん。

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「これからの未来を作る若い人が、この万博を経て未来を作る、だから若い人こそ来てほしい」とメッセージで締めくくりました。

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藤本 壮介(Sou Fujimoto)
1971年北海道生まれ、建築家。東京大学工学部建築学科卒業、2000年藤本壮介建築設計事務所を設立。主な作品に、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013(2013年)、House N(2011年)、武蔵野美術大学美術館・図書館(2010年)等がある。2025年開催の大阪・関西万博会場デザインプロデューサーを務め、レクチャー直前の5月12日に太宰府天満宮仮殿が完成した。


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藤本壮介さんによるデザインレクチャーの後には、BeCAT教員を交えたトークセッションも行いました。

ニューヨークからオンラインで繋がったセンター長の重松象平は、「何よりも藤本さん自身が楽しんでいることが伝わってくる。また、建築家が如何に自由でありえるか、を問いかけられている気がする。」

また、アムステルダム拠点の吉良森子は、「藤本さんの活動は、多様化する世界に建築ができることへのチャレンジ」。先に進むきっかけを問うと、「何よりも自分がワクワクするところをみたい、と俯瞰している。建築的思考は教育で植え付けられているが、純粋な好奇心が色々やってみる。躊躇はせず、やって考える。学生のためにあえて言うなれば、もちろん、基本的なことはクリアしてからの話です(笑)。」

今や、世界を舞台に活躍し、国内外から高い評価を受けている藤本さん。
しかし建築家を目指した当初から今の活動があったのではなく、大学卒業後にひとりで建築に思いを巡らして過ごした6年間が、建築家としての礎になったといいます。

BeCAT教員とのセッションだけでなく、会場に集まった学生や一般の参加者からも活発な質疑が飛び交います。建築家を目指す小学生からは、「かっこいい建築をたくさん見せてくれてありがとう」とお礼も。自分も建築家になるために、今のうちにできることを教えて欲しい、との問いには「小学生のうちに、自然の中でふれ、体験し、経験してほしい」とし「自然は多様で豊かで、自分の思うようにならない、常に想像力の上をいくすごいものであることを感じてほしい。」

また「思いやり」。建築は人のために作るもの。世界中の人が感動できるものであるためには「人への思いやり」が大切だとして4時間に渡るレクチャーを締めくくりました。

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