Design Lecture 2024 石上純也 氏 |開催報告
Design Lecture 2024
石上純也 氏 |開催報告
イベント名:Design Lecture 2024
日時:2024年10月26日(土)15:45-18:00
会場:九州大学伊都キャンパス 稲盛財団記念館 稲盛ホール
建築やデザインの分野で活躍する専門家を迎え、デザイン理論・手法を説く公開型レクチャーシリーズ、BeCATのデザインレクチャー。2024年は建築家の石上純也氏をゲストに迎えて開催しました。これまでに、福岡にはトランジットで立ち寄った程度、という石上氏。プロジェクトは元より、今回のようなレクチャーも福岡では初めての開催です。
石上氏が東京藝術大学大学院修士課程を修了後、妹島和世建築設計事務所を経て自身の建築設計事務所を設立したのは2004年。独立後に最初に手がけたプロジェクトは、神奈川工科大学のKAIT工房でした。学生が好きな時に来て好きなものを作る約2,000平米(45m x 45m)の工房は、ものづくりに興味がない人も関心を持つようにと考えられ、空間の組み合わせによって建物の中に景色が広がっています。

角度を変えて配置された柱は、見る角度によって面の見え方が異なる仕掛けとなり、繋がっているけれど閉じた雰囲気の場所や、広がって感じる場所など、スペースによって感じ方が変わります。エントランス空間を設計する際にも、その部分だけを見るのではなく、全体を同時に把握しながら設計するなど、ランドスケープを作るときに必ず行うことを建築でも行ったといいます。

共用開始後はセキュリティカメラで撮影された半年分の映像で実際の使われ方を確認し、象徴的な使われ方を抽出して編集した動画を見ながら説明する石上氏。実際にはスペースが十分に取られた柱でも壁のような役割をする柱や、通りかがりの人によく触られる柱、など実際の使われ方を見ることで、同じ柱でも役割が出てくることがわかったと言います。
また、石上氏にとって「建築を空間で捉えるのではなく、風景の一部として捉えられないか、と考えた最初のプロジェクト」でした。
次の題材は、栃木県那須の「水庭」。
約16,000平米のホテル敷地を、建て替えを検討しながら庭を作るプロジェクトです。
石上氏はホテル建築によって伐採されることになる森を、庭となる部分に丸ごと移植することを選びます。木の移植を成功させるために、周囲の生態系を壊さずに一定時間内で作業を終わらせるなど、移植に関する技術も駆使したそう。そうして実現した新たな庭は、前からあるような、しかし確実に以前とは異なる特別な景色を作り出すことに成功します。小さな草木もどう残すか、どう整えるかを考えてランドスケープを作り、意図的に自然要素を組み替えることによって、人間が介入できるような自然を作ったことで、忘れられない景色が誕生しました。
次は中国の「水の美術館」。
これは地域のデベロッパーがクライアントのプロジェクトで、入口から開発エリアまでを繋ぐ約1kmの人工湖の上を歩いていくことができる建物です。既存の建築を「周辺環境と切り離して室内を作ること」と考えるのであれば、室内を作ることが目的の建築ではなく、「建築の内側に新しい外を作ることができないか」を試みたプロジェクトです。

また同じクライアントの案件で「Church of Valley(谷の教会)」も進行中です。こちらは「漠然と当たり前に捉えられている“景色”を建築という考え方で定義づけること」へのチャレンジです。ここでは「谷」という狭くて高い空間を、入口1.2m、高さ45mの高くて狭い建築(教会)でつくります。ここに存在する自然の谷を通ってこの建築の谷に入る配置です。
また「Forest Kindergarten(森の幼稚園)」では、スケール感と抽象度、がテーマでした。通常建築を考えるときには、法定条件がありますが、その数値の根拠は大人のスケール。そこで「子どものための施設であれば、彼らのスケールで考えてはみてはどうか。」これが彼の視点でした。
クライアントの方針は、屋外での教育。「子どもにとって、外で遊ぶこととは?」を再び考えたと言います。「大人が使う場合は抽象性がある方が使いやすいが、子どもだったら具体的のものの方が引かれるのではないか?」このプロジェクトのチャレンジは、一般的な建築が求めるものと、子どもが求める具体性の共存です。一般的な機能を定めて作るのではなく、想像力によって使うことができる、そんな抽象度を作って共存を図ったといいます。
他にも17年前に着手し、当時は実現できなかったことが、時間と技術革新によって最近竣工できたというKAIT広場や、聴講者の誰もが好奇心で夢中になったロシアの国家プロジェクトの話など、石上氏の多彩な実績が惜しげもなく披露されました。
そしてレクチャーの締めは、山口の「House & Restaurant」。これはこれまで見たことのない風景を建築として具現化した顕著な例として知られる近年のプロジェクトです。
独立当時に内装の依頼を受けたレストランのオーナーから、「エッジの効いた新しい空間」をと、再び依頼を受けた案件です(話し合いを重ねるうちに、もともとそこにあった古い建物で食べてもらう方が深みがあるのでは、という考え方に変わりました)。
そこで建築の古さとは何か?を再定義した石上氏。「自然と人工的な建築と風景とランドスケープ。これをどう捉えるか、で新しい建築を生み出すことができるのでは?」という仮説から、この建築ができました。新築であるこのプロジェクトは、人間が穴を掘り、コンクリートを流し込み、コンクリートが固まってから土を掘る。すると想定外にもコンクリートに土がこびりついて取れなかったのですが、これも土壁のように見えるコーテイングだと捉え、あえてそのまま使い、古さを感じる建物になったと肯定的。また住宅街の中にある敷地が粘土質だったことが功を制して直角に掘ることができました。設計図とは異なる躯体になったものの、実測しながらガラスを嵌め込むなど、フレキシブルに対応することで、今に至っているといいます。
水の美術館や、House & Restaurantなど、メディアを通じて発信されてきた既成概念にとらわれない大胆なアプローチが、奇想天外な発想だけで成されたものでなく、その裏での緻密な計算によって作られた建築であることを知ることができたレクチャーでした。
その後に行われたBeCAT教員とのディスカッションも、石上氏と同世代であり、同じく世界各地で活動する重松象平(BeCATセンター長)を交えたトークで盛り上がり、あまり知られることのない石上氏の一面にも触れることができた貴重な機会でした。

-略歴-
石上純也
1974年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修士課程修了。妹島和世建築設計事務所を経て、2004年に石上純也建築設計事務所設立。主な作品に、神奈川工科大学KAIT工房・KAIT広場、Park Groot Vijversburgビジターセンター、水庭、2019年サ ーペンタインパヴィリオン、House & Restaurant、水の美術館など。2009年日本建築学会賞(作品)、2010年第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞、毎日デザイン賞、2019年芸術選奨文部科学大臣新人賞(美術部門)、OBEL AWARD、2024年フレデリック・キースラー建築芸術賞、2024年日本建築学会賞(作品)など受賞多数。

イベント名:Design Lecture 2024
開催日時:2024年10月26日(土)15:45-18:00
形式:一般公開(対面+オンライン)
会場:九州大学伊都キャンパス 稲盛財団記念館 稲盛ホール
対象:九州大学学生、建築教育に関心ある一般の方、BeCATでの学びに関心ある学生や一般の方
定員:246名(うち対面130名、オンライン116名)
参加教員|重松象平(センター長)、末廣香織(副センター長)、末光弘和(デザインラボ長)、百枝優(担当准教授)
報告|サーズ 恵美子
