BeCAT 春学期デザインスタジオ|パビリオン竣工報告
BeCAT春学期デザインスタジオ|パビリオン竣工報告
BeCAT Program では、2024年度の九州大学の修士課程の学生に向けたデザインスタジオを開講しました。
今年度のスタジオでは、 「1→0.8+0.2」 をテーマに、廃棄された素材をアップサイクルしてパビリオンを作成しました。
今の社会において、建設現場で一定の材料から何か建物を作るときに、材料の全部を使い切ることは難しく、8割程度が使用され、残りの2割程度が廃棄物となっています。
そういった現実に対して一つの建物を作ると同時に、残った材料を使ってもう一つ何かをつくることをあらかじめ計画してデザインする、つまり1つのもので2つのものをつくるというアイデアです。
この仮説に基づいて「1→0.8+0.2」が成立するようなプロトタイプを提示し、それに基づいたパビリオンの提案を課題としているスタジオです。
また本パビリオンは、九州大学一号館の中庭に 1/1 (原寸大)でセルフビルドし、来年9月に開催予定の建築学会まで休憩所として利用される予定です。
本スタジオでは中間講評会を経て、優秀作品として選出された3つの案を元にそれぞれグループに分かれ、パビリオンを作成しました。
詳しい内容に関してはこちらをご覧ください。
<パビリオン紹介>
一つ目の班は、《 背板 》 という廃材をテーマとした唯一の常設展示のパビリオンです。
現在木造建築が注目されている中で、建築市場には多くの丸太材が流通しており、同時に製材としての加工が行われています。丸太の多くは製材となって利用されておりますが、その中で発生する樹皮側の材は 背板 と呼ばれます。
今回はこの背板を利用したパビリオンを作成することにしました。

背板の特徴として半月型の形をしている点や、樹皮と木目が両方見えるということが挙げられます。樹皮側を合わせて三角形の構造を成すことを発見しました。またそれらが繰り返されることで、桔梗麻の葉柄となり、その三角構造を束ねることで組子の構造を形成します。

束ねた中で、組子内の三角形の形を切り取り、壁体として切り出していきます。
それから木で三角形のフレームを作り、そのフレームに組子構造をはめ込み、固定しパネル化します。背板を敷き詰めることで、面内剛性を確保すると共に、圧縮するような外力にも対応しています。木パネルの一辺は950mmです。

この正三角形の木パネルを用いて正五角形を底面とした五角錐を単一ユニットとし、正五角形によって立体を構成されている正十二面体をパヴィリオンのベースとして採用しました。
五角錐の底面である正五角形を、正十二面体に沿うようにして幾何学の立体を形成し、基礎部と開口部はあけた状態とします。


雨を避けるため、1mmのポリカを木で作られた単一ユニットをサンドイッチしました。パネル同士の接合は木ダボを用いて行い、基礎部と開口部分のみスチールを製鉄所に外注しました。熊本県小国町の製材所に協力していただき、背板の調達をしました。
最終的にできたのが幅2850mm、奥行き2650mm、高さ2770mmのパビリオンです。こうして皆様のご協力を頂きながら、背板のパビリオンが完成しました。



二つ目は《 海藻 》をテーマにしたパビリオンの紹介です。
コンセプトは「海藻が作る風景」です。
福岡県糸島市には大原海岸や大口海岸など、海藻が取れる海岸が幾つか点在します。
それらの海岸に打ち上げられた「漂流海藻」は、海辺の環境悪化の温床となるといった問題をかかえており、海藻は放置され悪臭や虫害のなどの原因となっている背景があります。そこで海藻の食以外のポテンシャルを追求し、建材としての新たな可能性を探りました。糸島の地域資源を活用し、海辺に新しい風景を作り出すことが狙いです。



また海藻紙の引張実験も行い、配合濃度を変えて最も強度が強い試験体を分析しました。
試験体寸法:15mm×180mm、載荷速度:15mm/minで破断時の強度と伸びを計測しました。
海藻濃度が 20%〜30%の時、最も引っ張りに強いという結果になりました。また機械和紙に比べ、伸びを許容するため緩やかに破断するという特徴を持ちます。
架構形式は、マグネットのみで三角形の木フレームの梁を相持ちにする構造としました。柱を砂浜に差し、それぞれが三角形フレームにもたれかかり、全体を自立させます。

鉄板とネオジウム磁石で海藻紙と柱を着脱可能とし、海藻紙は水平の力を負担するものとしました。
また持ち運びできるように、柱に海藻紙をくるくる巻いて可動式のものとし、野点できるようなものを目指しました。
糸島の地域資源である海藻を活用して、海辺に新しい風景を作ることを目指しました。


三つ目は湿度のよる乾燥収縮によって《 単板 》が動きを見せる、時間とともに変化するをテーマにしたシェード「木花」です。

本来木材は人間が呼吸をするように、細胞の中に水分を吸収したり放出したりしています。それに対し、人間が建材として木材を利用するために均質化を行った木材などは、こういった変化を起こりにくくするための構造や、接着方法で固定化されています。
このような背景の中、現代の建築においては、変化は一般的に避けるものとして対処されていますが、変化することは本当に良くないことなのだろうか、という疑問から本作品が考案されました。
そこで合板や集成材作成の工程について着目し、現代の建材の工程においては、製材前の原木の生命力と引き換えに、建材の均質化を行っています。つまり、製材前の生木を1とすると、建材化され、合板(0.8)ができる過程で、木材が持つ本来のパワー(0.2)が失われていると考えることができます。
そもそも単版とは何か?
単板とは丸太材から、かつら向きで製材した際にとれる布のような薄い材料です。
建材として木材を利用するために接着による固定化を行っていないため、1つ1つの細胞が生きており、表面に水をかけると水のかかった面の細胞が膨らもうとし、乾燥収縮の力で曲がっていきます。合板などの建材された木材とは異なり、ありのままの生きている木といえます。
単板という素材を知るための材料実験を行いました。片面に何種類かの接着剤を塗布した板、何も塗布しない板に水をかけ、乾燥をさせる実験を行いました。湿潤と乾燥を繰り返しながら、木は一度曲がってももとに戻る変化を繰り返していくことが分かりました。

単板は、3Dプリンターで出力した1方向にのみ可動する接合部により接合し、範囲を広げてシェード部分を構築していきました。囲われ感を増すために表面積と気積を増やしていき、このような形に至りました。
シェードの内側から水をかけると、窓をふさぐように木が曲がり、木陰が増え、乾燥するともとに戻ります。
木漏れ日は変化を繰り返し、木漏れ日の変化は内部の人々に自然の動きをみせます。今後はサウナや、茶室の天膜などへの応用も検討しています。

以上3つのパビリオンの紹介をさせて頂きました。
授業内のエスキスを経て、毎回ブラッシュアップをしてきたアイディアを、実際にどのように構築していくか、を検討することにより、さらに案の強度を増していきました。
本スタジオでは「1→0.8+0.2」が成立するようなプロトタイプ自体を提示し、それに基づいたパビリオンの提案を求めた実験的な試みでしたが、学生が現在の建築における新築市場ではない、新しい価値を見出し、新しいサーキュレーションを作りだすきっかけとなりうる提案をしてくれました。それらは現在開講している後期の都市建築デザインC「建築廃材のサーキュラーネットワークをデザインする」への布石ともなっています。
こちらではリサイクルから持続可能な未来を考える株式会社Green propや、解体業者である三和興業と協働して、実際の解体現場を見学したり、廃材をめぐる世界の状況を学びながら、糸島を対象にサーキュラーネットワークと廃材を使った建物・場・家具などをデザインすることを目的としています。
一年間を通して、持続可能な社会のための新しい循環について考え続けていきたいと思います。
今後こちらの活動も合わせてご報告していきますので、是非ご注目ください。
2024年度 春学期都市デザインスタジオ
日程:2024年10月12日(授業期間:4月9日〜7月27日)
※背板のパビリオンのみ九州大学イースト一号館中庭にて2025年9月建築学会まで設置予定
会場:九州大学イースト一号館コミュニティラーニングスペース(CLS)
対象:九州大学人間環境学府の大学院生、学部生
受講数:16名
参加教員:重松象平、末廣香織、末光弘和、吉良森子、百枝優
設計助手:中原拓海、楠元彩乃
施工アドバイス:三舛正順
構造アドバイス:木村洋介
報告|BeCAT 楠元彩乃